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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第157回 ふたつの湾をめぐる旅(後編)北近畿タンゴ鉄道〜天橋立

挿絵

・2日め
 翌朝、5時過ぎに眼が覚める。
 泊まっているホテルでは風呂は6時からということになっているが、それ以前から入れることを経験上ウエノは知っている。
 で、露天風呂で、その日のいちばん風呂に浸かり、部屋にもどってウイスキーの水割りの朝酒。
 温泉玉子、湯豆腐、焼きサバなどの朝食をとり観光に出発する。

 まずは京都府のほぼ中央に位置する美山というところにある茅葺き民家の集落に向かう。
 茅葺きの集落は岐阜・白川郷と、南会津の大内宿を観光したことがある。白川郷は雪(おいしいエッセイ第8回『白川郷のかけ蕎麦』)で、大内宿は紅葉の頃(同第74回『高遠蕎麦』)だった。白川郷は、見事な合掌造りが建ち並ぶ山間の集落で、おなじ茅葺きの民家でも宿場町である大内宿のほうは農家ではなく、しもた屋といったたたずまいの寄棟(よせむね)が旧街道沿いに整然と並んでいた。
 大内宿の家々は多くが土産物屋や蕎麦屋(箸の代わりに長ネギで食べる高遠蕎麦が名物である)を営んでいて、かなり観光地化されている。
 実際にまだ人々が居住している白川郷のほうも、観光客相手のお店が散見された。それに、なにしろ世界遺産であるこの地には訪れるひとが圧倒的に多い。

 では、こちら美山はどうかというと、茅葺きの民家が集まっている重伝建地区とはいえ、畑に囲まれたふつうの農村だった。そんな生活空間に足を踏み入れるのだから、なんか悪いナという気がしてしまう。
「おじゃましてます」と、野良仕事をしていたおばちゃんに声をかけたら、「ご苦労さま。遠くからですか?」と微笑んでくれる。
「東京からです」とこたえたら、「それはそれは」と、遙か遠くを見つめるような眼をした。このひとにとって東京はまったくの異世界なのだろう。
「雪は多いんですか?」ときくと、この冬はたいそう降って、山でいろんな木がこけたと言い、そのあとで、「震災ほどではないけど」そっと気づかいの言葉を付け足した。

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