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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第149回 北海道三都ものがたり(中編)〜函館と映画『居酒屋兆次』

・1日め(つづき)
写真  青函トンネルから飛び出して見上げた函館の空は、雲が白く刷毛ではいたようだった。東京の積乱雲とはちがい、それはかすかにゆく夏を感じさせた。
 とはいえ、この日の北海道上空は高気圧に覆われ、道内全体が晴れ渡っているらしい。空気は爽やかだが、涼しいとはいえない陽気である。

 函館元町を散策する。
 これまでも、横浜、神戸など“元町”と呼ばれるところをいくつか歩いてきた。そこには、きっと近くに港があり、異国情緒がほのかに漂っていた。
 函館もそうだった。坂の多い道を歩くそばから和洋の歴史的建築物に出会う。
 函館は映画『居酒屋兆次』(’83年)の舞台である。山口瞳による連作小説は、作家が住む東京・国立(くにたち)の居酒屋をモデルに描かれているが、映画では函館に置き換えられた。
 函館になったのは、おなじく降旗康男監督、木村大作撮影、高倉健主演のトリオでヒットした北海道が舞台の『駅 STATION』(’81年)につづく、同トリオによる企画であることからかもしれない。
 同トリオはこれにつづく『夜叉』(’85年)でも、日本海に面した北の港町を舞台に選んでいる。また、現在のところ高倉の最後の主演作となっている中国映画『単騎、千里を走る。』(’05年)の日本パートで演出を務めているのは降旗であり、カメラは木村、高倉はやはり北の老漁師である。
 余談だが(ここに書いていることすべてが余談のようなものなのだが)、木村大作の初監督作品『劒岳 点の記』(’09年)で明治の軍の測量官を演じる浅野忠信には、木村が敬愛してやまない高倉の寡黙なたたずまいが色濃く感じられる。

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