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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第140回 三陸(後編)恐山〜大鰐温泉〜竜飛岬

挿絵 ・3日め
 早い午前の山道をクルマが登るにしたがって、あたりはヒバ林だけになっていた。山に入ってからも、さいしょのうちは民家がちらほらと建っていたのだ。それがいまでは、すぐ山裾に広がっていた町の風景という日常が遠いもののように思える。そう、僕は恐山という異界にまぎれもなく向かっているのだった。
 小学生時代にむさぼるように読んだつのだじろう氏の心霊恐怖漫画『うしろの百太郎』や、夏休みに日テレのお昼のワイドショーで特集を組んでた『あなたの知らない世界』では、かの霊場にまつわるさまざまなエピソードが紹介されていた。いわく、冬のあいだは閉山され、寺を管理するために残った方が境内にある温泉に入ると、ひとのかたちをした白い影が湯船に浸かっていた……取材中の番組スタッフのあいだに起こる数々の怪異現象……山内で撮影した写真にはこの世のものならぬものが……
 少年ウエノを恐怖におののかせた霊場に、幾星霜を経て、ついに足を踏み入れようとしている。路傍に60センチほどの石柱がひっそりと立っていることに気がついた。そこには数字が旧い大字(だいじ)で刻まれている。さっき〔四拾參丁〕とあったのが、しばらく走って見つけた石柱では〔四拾貮丁〕に減っていた。1丁(約109.09メートル)間隔で立つ、参道であることを示す丁塚石である。数字が減るごとに、恐山へと近づいているわけだ。
 道の向こうに赤い頭巾をかぶったお地蔵さまが現れた。いずこともなく「一重組んでは……」という御詠歌が低く聞こえてくるようである。

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