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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第139回 三陸(中編) 陸中〜古牧温泉

挿絵 ・2日め
 翌朝、部屋のカーテンを開け、昨夜の“白い影”の正体がわかった。山の上にある高い高い工場の煙突だった。かつて、常磐線特急の窓から眺めた、日立鉱山の倒壊まえの大煙突を思わせる。
 宿の浴場は温泉ではなく、沸かし湯で、朝は6時からと聞いていた。まだ5時半だったが、すでに入浴可能であろうことは、ウエノは経験上知っている。はたして、タオルをぶら下げて行ってみると、万端整っていた。
 きのう、ひげを剃って家を出なかった。ひげは濃くないほうだし、宿に備え付けの安全カミソリだと肌がひりひりするので、放っておくのが常だった。けれど、近ごろ2日めの無精ひげに白いものが目立つようになって、さっぱりすることにする。これも備え付けのアフターシェーブローションを頬にはたき込むと、東北の宿でチャールズ・ブロンソン(古いか……)のような気分になった。
 さあ、2日めがはじまった。
 朝食後、宿を出る時、フロントで部屋から見える煙突のことをきいたら、もとは鉱山だったとのこと。やっぱり。

 宿からクルマで20分ほどのところの浄土ヶ浜に行く。ここを発見した高僧が、「さながら極楽浄土のごとし」と感嘆したことから名づけられたという伝承があるとのこと。むべなるかな。
 まだ、その日の観光客が訪れるまえの白い石が敷き詰められた浜から、巨大な白い岩塊がいくつも海のなかに山のようにならんだ姿は、たしかにこの世のものではないようだ。
 巨岩の間から、遠く岩井崎で、打ち寄せる波を岩場が吹き上げる、名物の吹き潮を眺めることができた。

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