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ぴー吉 上野 歩 / イ 
第120回『ぴー吉2世とミカン』・・・P2

挿絵  ところがこの冬、ぴー吉はやってこなかった。
 考えたくはないが、寿命というものがある。いや、ぴー吉は、どこかもっといいエサ場を見つけたにちがいない。きっとそこでぬくぬくしているのだろう、そう思っていた。
 
 かわりに小柄なヒヨドリが1羽やってくるようになった。
 コイツがからだの割りに大食らいなのである。朝、輪切りにしたミカンをベランダの手すりに固定したプランターに置いておくと、あっという間に食べつくしてしまう。自分の顔よりも大きなミカンの房をくちばしの先にくわえ、それを落とさないように器用にのどに送り込んで、目を白黒させていた。そうして、皮だけが残ったプランターの横で、ぴーぴー鳴いて、さかんにおかわりを催促する。
 僕はリビングのフローリングの上に新聞紙を広げ、そこで靴磨きをしながら、「魔法のポケットじゃないんだからな。そうそう食べものがあらわれるもんか」と窓に向かって言った。

 ちびのヒヨドリは、ぴー吉との共通点があった。
 ちびヒヨは、たしかに大食らいではあったけれど、エサを食べたら、さっさと飛び去ってしまうような無作法者ではなかった。大いに食べたあと、陽だまりの手すりにとまり、ぼんじゃりと寛いでいた。
 かつて、ぴー吉も、エサがあってもなくても、そうやってふらりと飛んできては、手すりにとまり、そこからただ街を眺めて長い時間過ごしていたものだ。

 それからなにより、ぴー吉もチビであった。
 真冬のエサのない時期、マンションの8階のちっぽけなベランダガーデンに飛び込んで生きる糧(かて)を得た、ぴー吉の勇気と英知に僕は敬意を払ったものだが、そうやって他の同族が手を出さなかったヤバイ場所に冒険を挑んだのも、なによりぴー吉が小柄なために、エサ場から追いやられてのことだったのかもしれない。

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