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挿絵
2012 上野亭店主口上 BACK NUMBER

>2012.12

挿絵

例年のごとくクリスマス寒波が到来する冬至の夜は、おでんにします。箸休めには、キンカン、芽キャベツ、ニンジンの焼き浸しがぴったり。この頃が走りのキンカンは、「金冠」に通じる縁起物です。薄甘い味わいに、「一陽来復(いちようらいふく)」の希望が感じられます。〈上野 歩〉

>2012.11

挿絵

好きな車窓風景(2)
西武国分寺線から見えるほぼ全線にわたる景色

西武国分寺線は、東京・国分寺〜東村山を結ぶ、起終点を含む5駅の短い路線ですが、すべての風景が好きですね。
国分寺を出ると、まず右手にこんもりとした緑に囲まれた日立製作所中央研究所に沿って走り、恋ヶ窪(大岡昇平の『武蔵野夫人』の舞台で、駅名が艶っぽい)に近づくと、右手に農地が広がるのも好ましい。畑の向こうには送電線の鉄塔が連なる風景が遠くまで見渡せます。そう、沿線すべてが、畑の点在する緑豊かな住宅地です。鷹の台駅の近くでは玉川上水の流路も確認できます。
沿線に建ち並ぶ瀟洒なマンションのベランダからは、住んでる人の幸福感が伝わって来るようで、引っ越してこようかなと思うくらい。いや、ほんとに。 〈上野 歩〉

>2012.10

挿絵

我が家では、朝食の食卓にタッパーがいくつか並びます。それを我々夫婦は「朝ご飯グッズ」と呼んでいます。なにが入っているかというと、釜揚げしらす、ゴボウと黒コショウの漬物、梅干し、キムチ、干しエビと白ゴマの自家製ふりかけ、それからこの夏のマイブームだったベランダでとれた紫蘇を刻んで酢醤油に漬けたのです。
今朝はこれらグッズと、ナスのぬか漬け、切り干し大根の味噌汁で玄米を1膳食べました。

>2012.9

挿絵

残暑の休日、妻の買い物に付き合って、日比谷〜新橋を往ったり来たりしました。歩行者天国では、歩道の隅の陽陰を選んでいましたが、たまらずサッポロライオン銀座7丁目店に飛び込みました。言わずと知れた、老舗ビヤホールです。

外観は改修されて、一見変哲のないビルですが、一歩店内に足を踏み入れると、柱、壁、天井、そこここに装飾の施されたアールデコの空間が広がります。正面カウンター越しに見える巨大なモザイクタイル画は、大麦の収穫を描いているのでしょうか。

あちこちで乾杯の声がこだまする中、持ち重りのする生ビールの中ジョッキを煽り、大きくため息をひとつ。粒入りマスタードとザワークラウトの添えられたソーセージも、カリッカリの衣をまとった鶏の唐揚げも、ビールのお替りを盛んに促します。

人心地ついて、天井近い窓の向こうで揺れる街路樹の緑を見上げ、亡き父とこの店で昼下がりにジョッキを掲げ合ったことを思い出しました。〈上野 歩〉

>2012.8

挿絵

「入りましたよ」と、馴染みの小料理屋の板さんから毎年恒例の電話がありました。“入った”のは小肌のシンコ。コノシロの幼魚です。
暖簾をくぐると、カウンターの一番隅に、すでに箸置きと割り箸が置かれ、僕を待っていました。「暑かったですね」と付け場から笑いかける板さんに、僕はビールを頼みます。
喉を潤し、「じゃ、お願いします」と声をかけました。「握りますか?」と訊かれ、「今日は刺身でください」と応えます。
塩水にさっと通され、酢で洗われた小さな魚肌は、薄い透明なベールに包まれたように輝いています。どこか夏の日盛りの明るさを感じるシンコを味わうことは、再び巡りきた季節と、過ぎ行く歳月を感じることなのでしょう。

>2012.7

挿絵

夏場の水分補給は、節電で冷蔵庫をあまり開けないよう、水筒に入れたミント水を飲んでます。ベランダのプランターからミントの葉を摘んで水洗いし、手でクシャッと揉んで、水筒へ。氷を入れて、ミネラルウォーターを注ぐだけ。スッとして、口の中がさわやかになりますよ。
もちろん仕事場ではクーラーも使いません。Tシャツに短パンのスーパークールビズ。窓の向こうでアイビーの葉が揺れています。

>2012.6

挿絵

好きな車窓風景(1)
JR嵯峨野線から見える保津峡

新幹線を京都で降り、在来線に乗り換えます。今日は日帰りの仕事です。
山陰本線の園部駅までは嵯峨野線という愛称区間で、地元の人たちの生活路線らしく、いつも乗り降りが頻繁なのを感じます。車窓からは、太秦(うずまさ)の撮影所が見えたりして、映画ファンの僕を喜ばせてくれます。

そして、有名な渡月橋のある嵯峨嵐山駅を出ると、やや唐突な感じで美しい渓谷が窓外に出現します。保津峡――京都市街のすぐ隣に、こんな景色が存在するなんて。
雨期の今、谷の川も緑も水が潤沢で、目が潤うようです。
電車が保津峡駅に停車すると、ホームのすぐ横にあるトンネルの上で、野猿が見下ろしていました。

>2012.5

挿絵

春先、インフルエンザに罹患しました。めったに風邪など引かない僕は、体温計の「37.7℃」というのが、はたして高いのか低いのかさえも分かりませんでした。いや、ほんとに。
で、それを境に体質が変わってしまったのか、なんと今年は花粉症の症状が出なかったんですよね。いやー、インフルエンザには罹ってみるもんです。「そんなことで花粉症が治るはずがない!」という周囲の声がもっぱらでしたが……いいんです、僕はそう信じてるんですから。

>2012.4

挿絵

エアコンと水洗トイレのない所には行きたくないという、極めてインドア派のウエノですが、今年は仕事の取引先のお招きで花の宴に参加しました。場所はメッカの上野公園。家人のこしらえたラスク(黒糖をまぶした甘いのとガーリック風味の2種)を手土産に向かいます。
いやー、驚きましたね、まずは駅を出るのにひと苦労。改札を抜けるのに長蛇の列ができているのです。
公園に入ってからがまたタイヘン。だいだいの場所は聞いていたのですが、隙間なく埋め尽くされたビニールシート上には無数の宴席ができています。上野公園で迷子になるウエノ。
でも間もなく分かりましたよ、ギターやキーボードを持ち込んでひときわ賑やかにしている座がそうでした。通りがかりの花見客のリクエストに応えて『セーラー服と機関銃』なんて演奏しています。すると、近くにいた若者のグループのパーカッションもノッてきたりして。
僕も末席に加わり、外国人観光客がもの珍しそうに向けるビデオカメラの中で酒と桜を楽しみました。 これが日本の花見だあ!

>2012.3

挿絵

小学校の6年間は、四季を通じて半ズボンでした。木枯らしが吹いても、雪が降っても半ズボン。当時は、なんていっても半ズボンが粋なのでした。
ひと冬を越え、白く粉を吹いたようになった剥き出しの太ももに、モワリとした春風がそよぐ日には、なにかよいことが起こりそうな気がしてときめいたものでした。

>2012.2

挿絵

ある日のある晩、妻にお赤飯を炊いてもらいました。べつに祝い事があったわけではありません。でも、好きなんですよね、お赤飯が。それは、子どもの頃から。
特別おめでたいことがあるのを待ってばかりいたら、大好きなお赤飯を食べる機会がなかなかやってきません。
思えば、普通に過ごしていられる日々が貴重な時代であるのかも。だから、食べたくなったらお赤飯。それでいいのじゃないでしょうか。

>2012.1

挿絵

亡くなった父親が着道楽だったので、遺された上着を幾つか引き継いで着ています。冬はツイード生地の物が多いのですが、そのうちグレイの杉綾織りのジャケットのボタンが取れてしまいました。革のくるみボタンで、糸を通す脚の部分が劣化してしまったようです。デパートに入っているメーカーに、替えボタンを探しに上着を持って行くと、ほかにも袖の飾りボタンにだいぶくたびれているのがあって、付け替えてもらうことにしました。
杉綾織りは、英語でヘリンボーン(魚のニシンの骨の意)。山と海ですが、どちらも「なるほど」と納得の着想です。

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