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/ 上野 歩
monthly essay / ueno ayumu

ぴー吉 第203回 食卓日記(22)〜忘れ物と朝市の巻〜

挿絵

*月*日
 満開もとうに過ぎる頃、近所に花見に出た。
 妻と石神井川沿いの桜並木を目指すが、その途中にもそこここにソメイヨシノがあって驚く。花のない時期には桜だと気づかずにいるのである。

 西武池袋線の練馬高野台駅近くから川に沿って歩く。
 見事な枝ぶりを両岸から川面に差し伸べる光景は、さながら桜のトンネルである。
 風の強い日で、盛大な花吹雪が降り注ぎ、川も桜色に染まる。花筏(はないかだ)だ。
 橋から見下ろすと、遊歩道で少年が、帽子で舞い落ちる花びらを受けとめようとしている。その行為を飽(あ)かず繰り返す。
 来年の春休みも、彼はここで一片(ひとひら)の花びらをすくっているだろうか? いや、彼はここでこうしていたことさえ覚えてはいないだろう。

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